ベテラン職人がポケットに忍ばせたもの

あるベテラン職人さんと仕事をした時のことです。
現場が終わって、「久しぶりに飲みに行きますか!」と居酒屋さんへ行きました。

席に着いた途端、その職人さんの作業着のズボンのポケットから出てきたのは、
私達tileworksオリジナルタイル “ラムダ” でした。
「持ってきちゃった、、。帰りがけに思わずね、ポケットにシュッと入れちゃったの。」
バリッバリの職人最前線にいるその職人さんが、ニコニコしながら言いました。

でも、毎日毎日何十年もタイルに触れている職人さんが、
思わずポケットに忍ばせて持って帰りたくなるタイルなんだ、
と思うと、とても嬉しくなりました。
毎日仕事でタイルを張っている職人さん達からは、
一年中毎日タイルのことを考えてる私の親方は「タイルの変態」なんて言われてます。

ところで、”タイル”って奥深いです。
マンションの外壁に張ってるのも”タイル”。
コンビニの床に張ってあるツルツルしたのも”タイル”。
でも、オシャレなキッチンに凝ったデザインで一枚だけ張ってるのも、”タイル”です。
“タイル”という言葉の範囲が広すぎて、人によってイメージが全然違い、
もしかして理解されづらいのかもしれません。

タイルは、紀元前1000年頃にはすでに装飾材として使われていたらしく、
私にとっては半永久に自分の愛着ある空間を作れるものだと思ってます。
これからどんな新しい空間を作っていけるか、自分でも楽しみです。

職人修行はどこまでも続きます。(記 : 吉永)

tileworksオリジナルタイルの "ラムダ"
tileworksオリジナルタイルの “ラムダ”

目地を拭く

目地を詰めて目地を拭く。
単純な作業なのに、これが奥が深い。
まだまだ、まだまだできません。

先日のこと、目地のふきあげを任されたトイレの個室2つ。
左右に並ぶトイレ個室は、同じタイルの色違い。

目地を詰めて拭き上げたときに、どの程度目地を掘るか(深くするか)、完全なルールはありません。
タイルの形、デザイン、大きさによって一番タイルが美しく見える目地の深さを、
タイル職人が現場で考えていることが多いです。
図面で目地幅3mmなど指定があることがあります。
(実際には図面通りにいかないことも多く、その場合目地幅3.2mmにしようなど職人が現場で決めています。)
ただ目地幅でなく目地の深さはほぼタイル職人が現場で考えています。
(レンガの施工などで、浅めにとか深めにとかの指定はあります。)
そして、目地の深さで、見た目はけっこう変わります。
格好よくなったり、可愛らしく素朴になったり、、etc。

さて、私が任されたトイレ2つの目地の深さは、気付くと左右の個室の目地が1つは深く、1つは浅くなってました。
どうしたものか?親方に相談すると、
トイレなら浅い目地の方が汚れがつきにくい、でもこのタイルなら深く掘った方が可愛い。と親方談。
目地の世界は奥深い、、、タイルを引き立てる女房、それこそが目地。
たかが目地。いや、されど目地。
本当に、難しいものです。

職人修行はどこまでも続きます。(記 : 吉永)

砂何袋?

「で、砂は何袋?1袋で足りる?」

わ、ヤバイ、解らない、、、。けど
「1袋で足りるんじゃないですかねぇ、、。」
なんとも歯切れの悪い私の受け答え。

これは先日私だけが、先にその現場を見ていて、
さぁ明日からいよいよ乗り込みだぞ、という日の親方との会話。
そこは、タイルの下地を3cm近くつけなくてはならず(現状から3cmモルタルを塗って厚みを出すこと)、そこに使う砂とセメントの量を親方に聞かれたのです。

「1袋は無理だろ、3cmつけるって聞いてるぞ。ちゃんと、計算してみろよ !!」

辛うじて現場の写真だけを撮ってきていたので、そこから考えました。
写真から推測して、幅600mm、高さ1800mmの所に厚み30mmのモルタルをつけるには、、、
モルタルの量は「立米(りゅうべい)」という単位で計算します。
私は、タイル屋になるまで知らなかった単位です。
「平米」が1m x 1m
平面でなく立面、つまり高さもいれて
「立米」は 1m x 1m x 1m です。

つまり必要なモルタルは、0.6m x 1.8m x 0.03 = 0.0324立米。

そして1立米に砂は60袋、セメントは20袋使います。
現場ではこの配合を、「砂3セメ1(すなさん、せめいち)」と言います。これを言えると少し職人ぽいです。

それで、先ほどの0.0324立米のモルタルに必要な砂は、
60 x 0.0324=1.944袋
となります。

つまり2袋必要です。
無事に2袋現場に持ち込み、ギリギリだなと言われながらも事なきを得ました。
今年の目標の一つに、現場を見てここには砂何袋、セメント何袋、目地何袋、、など
解るようになろうと思ってます。
でも、目分量にはまだ到底追いつかないです。

3cm厚みがついてます。
3cm厚みがついてます。

タイル施工って、ボンド塗って張って、目地して完成。
じゃ、なくてタイルを張る下地作りに労力が半分かかってるんじゃないかと思います。
料理人が、材料の下処理をしてから料理を始めるように。
モルタルのタイル下地、一人でちゃちゃっとできるようになりたい、、、の前に
数量位は拾えるようになりたいです。
ちなみに、今大体のセメント袋は25kg入りです。
私だと25kgがちょうど限界だなと、思うのですが昔はこれが50kgだったらしいです。
それが、40kgになり今の25kgになったようで。
セメント50kg時代に職人を志していたら、早々に諦めていたかも、、、と思います。
時代は繰り返すと言いますが、セメント50kg時代だけは繰り返してほしくないです。

職人修行はどこまでも続きます。(記 : 吉永)

職人の小ワザ

ボンド張りの現場は、コテをシンナーで洗います。
ちなみにモルタルで張る場合なら、全ての道具が水で洗えます。
ボンドは色々な所に接着しやすい反面、水で洗えなかったり、手がベトベトになって、
その手でタイルを触ってしまって、タイルも汚して、、、etc
施工面では不便で、あんまり好きじゃないという職人さんも多いです。

ある日のボンド張りの現場。
コテを何度も洗うのにハケを使おうとなりました。
ハケを付けておくために詰所(休憩室)にあったコーヒーの空き瓶を使うことになり、、、。
親方がおもむろに瓶の蓋に切れ目をいれました。それも目見当で。
「よし」
親方の満足気な声で見てみると、ハケがぴったり瓶にはまってます。
で、思わず写真を撮ってしまいました。

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目見当も職人ワザのひとつです。
目見当も職人ワザのひとつです。

工事現場では、職人さんがその辺に落ちているもので、
ちょっと工夫して何かを作っているのをよく見かけます。
そういうものを目にすると職人ってやっぱり工夫して手を動かすのが好きなんだなぁ、、、
としみじみ思って、なんだか嬉しくなります。
職人修行はどこまでも続きます。(記 : 吉永)

弘法筆を選ばず

さて、今日は1日左官仕事だぞという日に、コテ板を忘れた親方。
コテ板がなければ仕事にならないので、取りに帰りましょうか?
などと相談してましたが、、、、
現場に落ちていた発泡スチロールを削って持ち手にして即席コテ板の完成です。


見た目は少し悪いですが、これで仕事は無事にできました。
「弘法筆を選ばず」とはこのことでしょうか?

私の技量は弘法にはまだ遠く及ばないので、道具を大事に忘れ物しないようにします。
職人修行はどこまでも続きます。(記 : 吉永)

当たった!

新年早々、私が1番興奮したこと。

それは、1等の獲得です。

去年のクリスマス、親方からクリスマスプレゼントに職人ご用達のトップブランド”寅一”のジャンパーを貰いました。これを着ると、うーん私も遂に職人なったんだなと思える風貌です。

寒い日もかなり暖かいです。
寒い日もかなり暖かいです。

この寅一ジャンパーを親方が買った時、お店の宝クジを何枚も貰ったそうです。そして新年早々、道具を買いにお店に行った時、、、

「当たってますよ!親方。しかも、1等です。」

1等の商品は、マジカポイント 5,000pointゲットです。

「何?!当たった?!!マジカ!」

と親方が叫んだかどうかはさておき、マジカポイントとは、朝6時半OPENでいつも現場前にお世話になっている職人の強い味方”ドイトプロ”のポイント。これで、仕事道具をまた増やしたいと思います。
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職人修行はまだまだ続きます。(記 : 吉永)

 

落ちた!

痛い失敗の話です。

ある日、天井近くの高いところで仕事をしていた時のこと、
見事に足場にしていたビールケースから床に落ちました。
ふっと足を踏み外して、床に尻餅をつきました。
お尻から落ちたので、大事には至らずただただ痛いだけ。
普段から大きなお尻だと言われていますが、それが少しは役立ったのか役立っていないのか。。

親方には、当然怒られました。
「仕事に集中していない!!なにやってんだ!!!!!」と。

その時は、知り合いのタイル職人さんから借りたラジオで
オペラを大音量でかけていたのです。
とてもいい気分、なんだか壮大な気持ちで仕事をしていました。
でも、普段は作業中に音楽をかけることはしません。
それには理由もあって、例えばタイルを叩いたときの音で接着剤が十分タイルの裏に回っているか聞き分けたり、
タイルを切る音で安全に電動工具が動いているか聞き分けたり等、作業音も大切な音の一つであるからです。

ただ、その日は少し慣れてきた現場だったのもあり、気分転換にラジオをかけていました。
朝のきりっとした気分の中、重厚なオペラの音色にノリノリです。
そして、、、落ちました。仕事に集中していなかったのは間違いありません。
お尻の痛みよりも、自分が音楽に気を取られ集中していなかった事にショックを受けました。
自分のダメさ、を感じるのはツラいです。しかも、失敗といっても防げたはずの失敗。。
その後お尻は1ヶ月間痛み続けました。

ある職人さんの話で、そのベテラン職人さんも若い頃、
音楽をノリノリで聴きながら仕事をしていて、カッターで親指をスーっと切ってしまったそうです。
以来、絶対に音楽はかけないとおっしゃって言ました。
私はもっと、集中するべき大切さを考えました。
他の職人さんは、いつも音楽をかけながら仕事をしていて、それは自分が集中していれば音楽が耳に入ってこないからたそうです。
音楽が聴こえてしまうのは集中力が足りない証拠、もっとちゃんとしよう、と思う自分の目安に音楽をかけると言っていました。
音楽の使い方って、人それぞれなんだなぁと思いました。

落ちたときに乗っていたのと同じタイプのビールケース。街中で遭遇すると、苦い思い出が蘇ります。
落ちたときに乗っていたのと同じタイプのビールケース。
街中で遭遇すると、苦い思い出が蘇ります。

職人修行はどこまでも続きます。(記: 吉永)

段取り八割

段取り名人はタイル施工も上手い。
段取りが早い人は仕事も早い。
仕事は段取り八割。
つまり、段取りが終わった時点で仕事の八割が終わっている。

「仕事は段取り八割だぞ」
親方からたまに聞くこのセリフ。私は段取りがへたくそです。

ある現場で一緒に働いたタイル職人Kさんの話です。
Kさんは、その現場でタイルの職長さん。つまりタイルチームの親方です。
いつもタイルチームの職人皆が気持ちよく休憩したりできるよう気を配って頂いてました。
その現場は大きな現場だったので、いつも休憩室は色々な職人達でごった返していました。
ある時Kさんが、
「なんか、無駄なスペースがあるんだよなぁ、、、」とボヤキながらスケールで
休憩室の長さを測り、机の長さを測り、をしておりました。
私 : 「どうしたんですか?」
Kさん : 「なんだか、もっと上手く机を並べたら、もっと人が座れる気がするんだよ。」

Kさんのその動きは、まさにタイル職人が現場でするタイル割りの計算のごとく、
プロフェッショナルな動きです。
しばらくすると、Kさんが乱雑に並べられていた机の向きに変えていきました。

「これで座る人数が増えたぞ。」
満足げなKさんを見ながら、私は「段取り八割、、、」のセリフを思いだしていたのでした。

余談ですが、タイル職人は田植えも上手いとか。
そりゃ、そうですよね。何かを等間隔に並べるのは、タイル職人にしたら朝飯前なんだろうと思います。

職人修行はどこまでも続きます。(記 : 吉永)
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職人修行はモノマネから

「真似る]とは真に(まことに)似ること。

職人の世界は、親方の真似から始まります。
親方のモノマネをして、はじめはなんでこうするかは全然解らないですが、
とにかくモノマネして、、。
を繰り返していく内に、なんとなくできるようになってきて。
自分ができるようになってからはじめて、
あ、この動きってこうする為だったのか!
と気付くことがほとんどです。

私のモノマネ体験の1つに、くし目のコテでのボンド塗りがあります。
初めてやってみろと言われたときは、あまりのできなさに15秒ともたず、
「ボンドが乾いちまうぞ。もういいよ、どけ。」
と言われ、なぜ、できないか自分でも全然解りませんでした。

それでも、少しづつ機会を得て挑戦して、
現場では親方のコテさばきを盗み見して、、の繰り返し。
最近、少しはマシになったと思ってます。
例えば、ボンドを塗った端っこ。
親方のは綺麗な端っこなんです。ホレボレするくらい。
まさに、日本庭園の枯山水です。
ところが、私のはぎざぎざ、べしょべしょ。
それでも、親方の動きをモノマネしていたら、、いつの間にか、あら、綺麗。
私の割には、いい端っこになってきました。
親方が手前で何回かクシ目を引いていたあの動きは、端っこに綺麗さにつながっていた。
と気付いたのは、やっぱり自分で少しできるようになってからです。

karesannsui

技術はさておき、私が真っ先に親方に似てしまったのは、
親方の口癖、日常会話的裏職人用語です。

※「暑いな、こんちきしょー!」(訳 :「暑いな、でも仕事だ!」)

※「上手くねぇな。」(訳 :「このタイルの割り付け、寸法が綺麗に納まってない。」いい納まりの時は=「上手い!」と一言。)

※「あのボンドはだらしねぇ」(訳 :「あのボンドは粘度が足りなくて、タイルを張ったときにだらっと動いてしまう。」マヨネーズとお餅じゃどっちの方が動かないか、とういような違いでしょうか。)

さて、私がこの一年親方の真似で一番うまくなったのは、
タイル施工の技術ではなく、口の悪さかもしれません。

職人修行はどこまでも続きます。(記 : 吉永)

タイルの下はシゴかれる

『シゴく』

これも、現場ではよく聞くセリフです。

“俺が明日シゴいとくから”

いやぁ、弟子としては焦ります。みんな平気な顔でこんな会話をしてますから。

シゴくとは、タイルの下地がボコボコの時に薄くモルタル塗って、平らにしとくよってことです。タイルを綺麗に張るのは、下地にとても影響されます。下地が平でなかったら、タイルが綺麗に仕上がりません。モルタルで高低差を調整する『バサモル』という方法もありますが、床にしか使えないし、万能ではないです。『バサモル』はバサバサしてる砂を盛るから『バサモル』って言うんだ!ってのは、親方のセリフです。

ちなみに、シゴき用のコテであるコテ屋さんのシリーズに『スパルタ』というシゴきこてのシリーズがあるとか。

職人用語って、とにかく誰にでも解りやすい、、、もしかしてオ◯ジギャグのエッセンスが混じっているような、、こういった会話にバンバンついていくのも、修行のひとつです。

職人修行はどこまでも続きます。(記: 吉永)

いつも行っているコテ屋さんで見つけたスパルタシリーズ。
いつも行っているコテ屋さんで見つけたスパルタシリーズ。